【婚活小説】 涙のお見合いパーティー

第1話 スランプで漫画が描けない

しだれ桃代は机の上の白紙原稿をじっと眺めていた。

さっきからまったく筆が進んでいない。
ストーリーはもう出来ており、
コマ割りも考えてある。
でもどうも納得いかないのだ。

何かが違う。

カレンダーに目をやった。
締め切りはもう目前だ。
このままでは間に合いそうにない。

桃代は机を離れ、
部屋の中を歩いた。
といっても8畳ほどのワンルームだ。
同じ所をぐるぐる回るしかない。

大ヒットを飛ばして2LDKの分譲マンションを買うのが、
桃代の夢だった。
しかしデビューから5年経つけど、
いまだに売れない漫画家のままだ。

今回依頼されたのはアラサー女性向けの恋愛漫画。
連載ではなく読み切りだ。
でも一話だけでなく何回かに分けて雑誌に掲載される。
まずまずいい仕事だ。

桃代はアラサー女性を主人公にした恋愛漫画に着手していた。
地味でモテない娘がイケメン王子様を捕まえるという話。
大まかなストーリーは簡単に出来上がったのだが、
どうも気分が乗らない。
主人公が動いてくれないというか。

調子のいいときはキャラクターが勝手に動きだして、
次の展開をどんどん引き出してくれるような感覚におちいる。
しかし今回はまったくダメだった。
アラサー地味子ちゃんは、いつまでたっても動いてくれない。

「スランプだな」
窓から通りの眺めながら桃代はつぶやいた。
片側1車線の道路は車で溢れ、渋滞を起こしていた。
スムーズに流れていかない都会のおなじみの景色。
それが今日は妙に桃代を苛つかせる。

机の上でAKB48の『恋するフォーチュンクッキー』が鳴りだした。
桃代は窓を離れ机に戻り、
雲型定規の横に転がっているスマホに手を伸ばした。
電話をかけて来たのは担当編集者の島倉さんだ。

「どうですか調子は?」
電話の向こうから島倉がお気楽そうにそう尋ねてくる。
コチラの苦労も知らないで。

桃代は原稿が進まない状況を簡単に説明した。
島倉は意外そうだった。
たしかに桃代はこれまで原稿が遅れたことなどなかった。
締め切り前にきちんと仕上げ、
余裕を持たせて島倉に原稿を渡すことが出来た。

「桃代さんにはやっぱり恋愛ものは難しかったんですかね」
島倉が言った。
桃代はバカにされたようでカチンときた。
まるで恋愛を知らないモテない女のような言われ方だ。

「桃代さんってずっと彼氏いませんもんね」
「そんなことないよ」
「そうなんですか。でも聞いたことないですよ」
「いちいち言わないだけだよ」
そうは言ったものの、
実際桃代は彼氏なんてずっといなかった。
男性と付き合った経験自体がないのだ。
恋愛を避けてきたといっていい。
自分に自信がないため、
男性を好きになることを避けてきたようなところがある。

アラサー地味子はまさに桃代そのものといっていい。
まるで自分の分身だ。
アラサー地味子がなかなか動き出してくれないのは、
桃代自身が恋を知らないからなのかもしれない。
恋する気持ちのドキドキ感や、
デートのウキウキ感など、桃代は何一つ知らないのだ。

そんな状態で漫画が描けるわけがない。

「やっぱり桃代さんには『24』みたいなアクションものを依頼するべきだったかな?どうします今回の仕事。出来ますか?」
「出来るよ。何いってんの」
「恋愛ものが無理ならそう言ってください」
「大丈夫。締め切りには間に合わせるから心配しないで」

島倉は心配を抱えたまま電話を切った。
桃代の大丈夫というセリフを信じてはいないようだった。

たしかに桃代は女性マンガ家ながら、
海外ドラマ風アクションやサスペンスものを得意としていた。
好きなドラマも『プリズン・ブレイク』とか『ウォーキング・デッド』だ。
国内の恋愛ものとかはほとんど観ない。

取材に行こう。
桃代は思った。

恋愛を取材に行くのだ。
彼氏を作って、実際に自分で恋愛を体験してみよう。
そしたらきっといい恋愛漫画が描けるはず。

とはいえ桃代には親しい男友達とかはいない。
同性の友達も少ないのだ。
まさに出会いと無縁なアラサー地味子な生活をしていた。
はたしてどうやって異性と出会えばいいだろう?

桃代はスマホで「彼氏 作り方」を検索してみた。
しかしどうも桃代の知りたい情報が出てこない。
服装に気を使いましょうとか愛されメイクとか、
女子力アップ系のサイトばかりが並んでいた。

桃代が知りたいのはどこで知り合えばいいのかだ。
女子力アップのそのあとの話。

桃代はYahooに打ち込むキーワードをいろいろ変えながら、
彼氏の作り方を検索し続けた。
なかなか答えが見つからないため、
長期戦を覚悟した桃代はスマホをやめてノートパソコンに切り替えた。

検索の効率が上がったからか、
ノートPCに変えてすぐに求めていた答えが見つかった。
お見合いパーティーを紹介してる婚活サイトがあり、
それが桃代に道を示してくれていた。

お見合いパーティーなら簡単に彼氏が出来るかもしれない。
桃代はそう感じた。
習い事とかスポーツジムで出会いを期待するよりも、
こういった出会いのサービスの方が話が早そうだ。
締め切りも近いことだし、
即効性というのは桃代にとって大事なことだった。

時間もないので、桃代はその場でお見合いパーティーへ申し込んだ。
ネットで簡単に申し込めるのでありがたい。
あとは当日会場へ行くだけだ。

しかし申し込みが済んでから桃代は急に不安をおぼえた。
お見合いパーティーってどんなことをするのだろう?
男性とうまく話せるだろうか?

胸の内で心配事が急速に膨らんでいった。


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