【婚活小説】 涙のお見合いパーティー

第2話 初めてのお見合いパーティー

お見合いパーティーの会場は繁華街のど真ん中にあった。
交通の便は文句無しといったところだ。

飲食店やネットカフェなどが入るオシャレな外観のビルの5Fが会場だ。
エレベーターが2機あり、
何人かの人が待っていた。

しだれ桃代は怖くなり、
彼らと一緒にエレベーターを待つことが出来なかった。
一度外に出て、駅の方へ道を少し引き返した。

お見合いパーティーが始まるのは午後2時。
もうあと10分ほどしか時間がない。
このまま帰ってしまおうかと一瞬考えた。
そしたらどれだけ気持ちが軽くなることだろう。

しかし桃代は思い直した。
漫画を仕上げないといけない。
締め切りまでそれほど時間の余裕があるわけではないのだ。
このまま帰ってしまったら、
また机の前でウンウン悩むことになる。

桃代はビルへ戻った。
新人漫画家だった頃が思い出された。
原稿を出版社に持ち込んで見てもらうときの気の重さに、
今の気分はよく似ている。

エレベーターのところにはさっきよりたくさんの人が待っていた。
彼らはネットカフェの客だろうか?
このうちの何人がお見合いパーティーの参加者だろう?

エレベーターが降りてきて乗り込むと、
ギリギリ全員乗れる状態だった。
久しく満員電車に乗ってなかった桃代は、
息が詰まりそうだった。

5階に着くと全員がエレベーターを降りた。
みんな同じお店に入っていく。
そこがお見合いパーティーの会場だった。

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受付がかなり混雑していて、
パーティーの開始は少し遅れそうだった。
桃代が受け付けで料金を払い、指定された席に着いた時点でも、
すでに予定の開始時間をオーバーしていた。
桃代は渡されたプロフィール用紙に必要事項を記入することにしたが、
まだ受付前には長蛇の列が続いていた。

会場には60人~70人ぐらいの人が詰め込まれていた。
男女同数ぐらいだ。
参加女性は桃代と同年代のアラサーぐらいの人が多いように思えた。
男性は30代前半ぐらいの人が多いだろうか。

飲食店を貸し切ってパーティーを開催しているらしく、
会場の奥にはカウンターなどもあった。
男女がテーブルを挟んで向かい合わせに座っている状態だ。

お見合いパーティーがスタートしたのは、
予定より10分遅れてだった。
まず運営スタッフのひとりが簡単な説明をする。
マイクを使って話すので説明がよく聞こえた。

説明が終わるといきなりお見合いパーティーがスタートした。

みんな慣れているのだろうか、
目の前の相手にプロフィールを渡して挨拶を始めた。
桃代は急に始まったパーティーに戸惑い、
まわりの様子を傍観していた。

すると桃代の正面に座っている男性が、
桃代にプロフィールを差し出してきた。
挨拶を交わし、お互いのプロフィールを交換する。
渡されたプロフィールにとりあえず目を落としたが、
書かれていることが頭に入ってこなかった。

頭の中が真っ白になっていた。

「しだれ桃代さんっていうんですか、変わった名前ですね」
相手の男が言った。
名前を呼ばれて桃代は我に帰った。
何を言っていいかわからず、無言で次の言葉を待った。

「苗字がひらがなで名前だけ漢字なんですね」
「ええ、まあ」
プロフィールには本名ではなく、
漫画家のペンネームを書いた。
失敗したかもしれない。
もし自分を知っている人がいたらどうしよう。
職業欄には一応会社員と書いたが。

「桃代さんはどのようなお仕事を?」
「会社員です」
「ですからどのような」

突然ベルが鳴った。
「みなさん席を移動してください」
先ほどの司会者がマイクで席替えを促す。
男性陣が立ち上がり、席をひとつ横にずれる。
女性は座ったままでいいようだ。

ろくに話が出来ないまま、
最初の男は隣の席へ移っていった。
間髪入れずに2人目の男が話しかけてくる。
さっきと同じようにプロフィールを交換し、
同じように会話を始める。

2人目の男も桃代の名前に食いついてきた。
よほど珍しいのだろう。
他の女性陣はみんな本名を書いているのだろうか。

話はじめてすぐにまた席替えの号令がかかった。
短い。
まだ1分も話してない。

お見合いパーティーは思っていた以上に慌ただしかった。
男性陣が入れ代わり立ち代わり目の前の席に座り、
ほとんど会話らしい会話も出来ないまま去っていく。
ゆっくり会話など出来なかった。
顔を見て、どんな声か聞くだけで、すぐ席替えだ。

途中からはもう誰が誰だかわからなくなっていた。
最初の方に話した人のことはもうまったく頭に残ってない。
とにかく目の前にやって来る男を処理するので精一杯だった。

一巡して全部の男性と話し終えると、
やっと休憩タイムが訪れた。
中間集計を行うので、用紙に気になった男性の番号を書くよう言われた。

だが、そうはいわれても桃代は誰一人おぼえていなかった。
顔が浮かんでくる人も何人かいたが、
名前はおろか番号など一切おぼえてない。

周囲に目をやると、他の人たちは黙って用紙に番号を記入していた。
あの慌ただしさの中でもちゃんと目当ての人をチェックしているようだ。

スタッフが用紙を回収してまわった。
桃代はどうすることも出来ず、
白紙で提出した。

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後半はフリータイムだった。
確か最初の説明のときにフリータイムは自由に席を移動していいと言っていた。

桃代はどの男性と話をしようか考えてみた。
とくに印象に残った人はいない。
もしかしたら医者や一流企業のエリート社員などもいるのかもしれない。
しかしあまりの慌ただしさに、
プロフィールをじっくりチェックする余裕がなかった。
もう今となっては誰がどんな人がまったくわからない。

フリータイムが始まるとみんなぞろぞろ移動を開始した。
よく見ると立って移動を開始したのは男性ばかりだ。
女性は自分の席に座ったままだ。
桃代は席を立ちかけたが途中でやめ、
元の位置に腰を降ろした。

男性陣はお目当ての娘の席の前に各自移動する。
女性陣は座ってそれを待っているだけだ。
そうした暗黙の了解があるのかもしれない。
フリータイムといいつつ選択権があるのは男性だけなのかも。

桃代の目の前の席にもひとりの男性が座った。
頭のハゲた40歳ぐらいの男だ。
参加者中最年長かもしれない。
ニタニタ桃代の顔を覗きこんできて気味が悪い。

「桃代さんは漫画は好きですか?」
男が聞いてきた。
「まあたまに読みますけど」
「漫画を描いたりしますか?」
「書きませんよ」桃代はきっぱり否定した。
「あれ?おかしいな」
「何がおかしいんですか」
「いや別に」
男はそう言いながら桃代の顔をニタニタ覗き込む。

男のニヤケ顔が気持ち悪くて桃代は目を伏せた。
この男は桃代が漫画家であることを知っているようだ。
少年誌や青年誌に作品を掲載したことは一度もない。
ということは、この男は普段から少女漫画とか読んでいるのだろうか。

男は外見からしてオタクっぽかた。
いい年して少女漫画を読むキモオタ野郎だ。

男は漫画のはなししかしなかった。
どんな漫画が好きか尋ねてきたり、
自分の好きな作品についてあれこれ語ったり。

席替えの号令が掛かったとき桃代は心底ほっとした。

キモオタが去って行くとすぐに別の男が桃代の前に座った。
とくに特徴のない平凡な35歳ぐらいの男だ。
話してみてもやはり可もなく不可もなくという印象だった。
でもあのキモオタよりは断然マシだ。

こうしてひとり5分ぐらいのフリータイムは4回ほど行われた。
それが済むと最終投票に。
桃代はこのときも白紙で提出した。
もうどうでもいいから早く帰りたかった。
精神的にも肉体的にもクタクタだ。

彼氏を作ろうと思ってお見合いパーティーに参加してみたが、
これは予想以上にハードだ。
何か別の手段を見つけないと。


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