【婚活小説】2度と結婚情報サービスなんて

第1話 勧誘電話

河合美穂は36歳で、まだ独身だった。
最近結婚という言葉に敏感になっている。
テレビなどで結婚の話題が出るとつい見入ってしまう。

今日も結婚の特集が組まれている雑誌を買って帰ってきてしまった。
お風呂のあとにゆっくり読もう。

美穂は湯船につかりながら、
これまでの恋愛を振り返ってみた。
自分にもこれまでチャンスがなかったわけではない。
20代の頃はけっこうモテた方だと自負してる。

躓きは32歳のときに起きた。
4年間付き合っていた彼氏と別れてしまったのだ。
美穂はてっきり彼と結婚するものだと思っていた。
信じて疑わなかったと言ったらいいだろうか。
交際は順調で、いずれ彼からプロポーズされるだろうと信じていた。

しかしいつまでたっても結婚の話は出なかった。
30歳を過ぎ、31歳になり、そして32歳の誕生日を迎えたとき、
さすがに美穂は焦った。
まわりの友人はみんなもう結婚していた。
仲間内で独身は美穂一人だけだった。

友達の助言もあり、
美穂は彼に気持ちを確かめてみることにした。
驚いたことに彼は結婚する気はないと答えた。
制度に縛られたくないのだと。

4年も付き合っていたけど、
彼のそういった考えを聞かされたのは初めてだった。
この4年間はいったい何だったのだろう。
目の前の男が、自分の知っている彼ではないように思えた。

こうして彼と別れて以来、美穂はずっとひとりだった。
32歳のときからもう4年以上も恋をしていない。
20代のときと違って合コンに誘われることもなくなったし、
街で声をかけらることもなくなった。

美穂自身も恋愛に臆病になっている部分があるのだろう。

雑誌と一緒にコンビニで買ったヨーグルトドリンクを飲みながら、
美穂は結婚特集のページをめくっていった。

結婚する平均年令は29.5歳と出ていた。
かろうじて30歳手前でとどまっている感じだ。
男性の平均は31歳。
こちらは完全に30代に突入している。
30歳になっても半分以上の男性はまだ独身ということになる。

雑誌には他にも結婚式の費用から高齢出産についての記事まで、
ためになる話がたくさん載っていた。
美穂がまさに今一番興味のある話題が満載だ。

結婚相手と出会った場所についての記事もあった。
職場での出会いがダントツとのこと。
やはり職場結婚は王道のようだ。

次いで多いのは知人の紹介らしい。

その他いろいろな場所でみんな出会っているようだが、
美穂が気を止めたのは、
結婚相談所で出会って結婚する夫婦も意外と多いという事実だった。
全体の5%ぐらいはそうらしい。
「結婚相談所関連」と記されていて、
関連がいったい何を指すのかはわからないが、
5%というのはかなりの割合に思えた。
お見合いパーティーみたいなやつも含まれてのかもしれない。

これまで結婚相談所に興味はなかったが、
5%という数字が美穂の心に深く刺さった。
もっと結婚相談所のことを知りたくなった。

しかし雑誌には結婚相談所のことはあまり書かれていなかった。

ネットで調べてみようと思い、
ノートPCを開いた。
Yahooの検索窓に結婚相談所と打ち込むと、
たくさんの結婚相談所が出てきた。

いくつかのホームページを見てみた。
システムや料金体系がわかるようでよくわからない。
聞いたことのない単語もよく出てくる。
自分には基本的な知識が欠けているのだろう。
もっと結婚相談所についてわかりやすく解説しているサイトはないだろうか。

業者の公式サイトよりは比較サイトみたいな方が
初心者の自分にはわかりやすいかもしれない。
そこで美穂は「結婚相談所 比較」と打ち直してみる。
さっきとは違うサイトがずらりと表示される。

その中のひとつをのぞいてみると、
初心者向けの解説ページなども用意されていた。
やはり打ち直して正解だった。
業者の公式サイトよりこっちの方が全体像がつかみやすかった。

観ようと思っていたドラマがもう始まる時間だったが、
美穂はそのままネットでの情報集取を続けた。

いろいろなサイトを見てみたわかたことは、
入会金が10万円ぐらい必要で、月額費も15000円ぐらいかかること。
どうやらオーネットという業者が最大手らしいこと。
無料のパンフレットを送ってもらえるみたいだということ。

費用が高いのか安いのか判断は付けづらいが、
美穂は36歳女性としては高給の部類に入る。
費用は問題ない。

どの結婚相談所に入会すればいいのかは、
正直よくわからなかった。
比較サイトそれぞれで推している相談所が違う。
全体的に見るとオーネットが一番評価が高いように思えた。
楽天グループで、しかも業界最大手。
そういった安心感は一番ある。

ホームページから簡単に無料パンフレットを請求できるようなので、
それを取り寄せてみよう。
オーネットだけではなく、
他の数社も取り寄せいてみよう。どうせ無料だ。
数社に一括で資料を請求できる便利なサイトがあるようだ。
そこから申し込めばひと手間で済むみたいだ。

logo

たまった書類を整理していると、
後輩の女性社員がやってきた。
来客だという。
出入り業者がお昼にやって来ることになっていた。

美穂は大急ぎで書類をまとめ、
応接室に向かった。

エレベーターに乗り込んで3階のボタンを押したときに、
突然携帯が鳴った。
美穂は書類を片手に持ち替えて電話に出る。
掛けてきたのは結婚相談所だった。
「河合美穂さまのお電話でしょうか?このたびは資料をご請求いただきありがとうございました。確認でご連絡させていただいてるのですが、お時間よろしいでしょうか」
確認?
何だろう?

「河合美穂様は年齢36歳。お住いは東京都世田谷区。間違いございませんでしょうか?」
「はい。間違いないですけど」
「現在は独身で、交際中の男性などもいらっしゃらないと。間違いございませんでしょうか?」
「ええ、まあ・・・」
「ところ河合様、相手にはどのような人を希望されますか?当社にはたくさん男性が登録されてます。河合様のご希望に沿う方もたくさんいますよ。その方たちのお写真にお見せしますので、一度来店ください。いつがご都合よろしいでしょうか」
「ちょっと待ってください」
相手は勝手にどんどん話を進めようとする。
美穂は来客があることを告げて電話を切った。
放ってたらいつまでも話してそうなおばさんだった。
無料パンフレットを請求しただけなのに、いったい何だ、今のは。

業者と打ち合わせしている間はすっとマナーモードにしていた。
しかしその間にも着信が一件入っていた。
さっきとは違う番号からだ。

机に戻り、マナーモードを解除して仕事をしていると、
また電話が掛かってきた。
さっきの着信履歴のところからだ。
出てみると相手はさっきとは別の結婚相談所の人だった。
でも話の内容はやはり強引に来店を迫るような感じで、
似たようなものだ。

美穂はもうその日はずっとスマホをマナーモードにしていた。

自宅に帰り、スマホをチェックすると、
着信履歴が2件あった。
昼間電話してきた結婚相談所と、
あともうひとつ新手の結婚相談所からも1件掛かってきていた。

結婚相談所で活動してみようと考えていたが、
なんだか前途多難に思えてきた。


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