【婚活小説】2度と結婚情報サービスなんて

第3話 異国の味

2社目の結婚相談所も期待はずれといってよかった。
1社目のように極端に悪いワケではないけれど、
どうも魅力に欠けた。
説明してくれた担当者に魅力を感じないといったらいいだろうか。

やはりお世話になる以上は担当者との相性みたなものは、
たぶん重要な気がする。
やる気が感じられない人の所でお世話になる気は起きない。
本当に信頼できる人のところで頑張りたい。

次は3社目。
これで最後だ。
ここでダメならもう次はない。

勧誘の電話をしてきた残りの3社は嫌だ。
もうこの3社目、オーネットしか残ってない。
でもここは第3候補だった。
理由は検索機能がないからだ。
自宅のパソコンを使って自由にお相手探しが出来ないのだ。
わざわざ店舗まで行って専用端末で検索しないといけない。

セキュリティー上そうしているのだろうが、
やはり出来れば会員検索ぐらいは自由にやりたい。

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美穂はこれまでと同じように約束の10分前に到着した。
やはりパーティションで区切られたブースに案内され、
待つように言われた。

店舗には美穂以外にもたくさん人が訪れていた。
会員が専用端末で検索しに来ているのだろうか?
他とは混み具合が違った。
すごく騒がしい。
美穂の入ってるブースの両隣とも埋まっていた。
どちらも入会の説明会っぽかった。

また長く待たされるような気がした。
今日は日曜日だから特別混んでいるのだろう。

「お待たせしました。今日はわたくし遠藤が担当させていただきます」
そういってスーツ姿の中年女性が入ってきた。
虚を突かれた形になり、美穂は少し慌てた。
まだ約束の5分ぐらい前だ。
てっきり15分ぐらい待たされるのかと思った。

遠藤は持ってきた資料を机に並べてから椅子に座った。
「今日は暖かいですよね。今年の一番の暖かさだそうですよ」
「初夏のような陽気になりましたね。半袖で来ようか迷いました」
「暑かったら脱いでもいいですよ。掛ける所あるから」
「いいえ、大丈夫です。ここはエアコンが効いてるようだから」
遠藤は気さくでしゃべりやすい人だった。
にこやかで人柄も良さそうだ。

説明は30分ぐらいかかった。
内容は公式サイトや比較サイトに載っていたのとほぼ同じ。
会員検索について一応確認したが、
やはり自宅のパソコンなどでは出来ないと言われた。
「やはりプライバシーに関わることですからね」遠藤は説明した。「自宅で会員のプロフィールなどが閲覧できると便利ではあるけど、友達にも見せたりする人だっているでしょ?スマホを使って電車で閲覧していたら、となりの人にも丸見えだし。画像を保存されてネットに流出されてしまったうなんてことも起きないとは限らないし。」
「たしかに怖いですね」
「多少不便でもセキュリティーがしっかりしたところの方がいいですよ。とくに女性は」

遠藤の説明は丁寧で説得力もあった。
多少不便でも自宅での検索を禁止している方が良いのかもしれない。

「せっかく来たんだから河合さんの希望の男性がどれぐらいいるか調べてみましょうか?すぐに済むよ。見てみる?」
「そうですね。お願いします」

遠藤は手元のパソコンを操作して検索画面を開いた。
「相手は何歳ぐらいの人が希望?」
「出来れば30代の人がいいです」
「そりゃそうだよね、まだ河合さんは36歳だもの」
「年下は苦手なので、36歳から39歳の人がいいんですけど、どのぐらいいますかね」
「たくさんいますよ。会員で一番多いのが30代後半の男性だから」
「そうなんですか。知らなかった」
「住まいはどうしますか?結婚後も東京に住みたい感じ?」
とくに東京にはこだわりはなかった。
いい人がいたら大阪でも九州でもどこでも嫁いでいくつもりだ。
今の仕事も好きだったが、
結婚はもっと大事だと思っていた。

さらにいくつかの質問が続き、
美穂の条件に当てはまる会員がはじき出される。
「少し多いようなので首都圏に絞りましょう」
遠藤はそう言って検索をやり直した。

結果がモニターに映し出される。
「500人ほどいますね」
遠藤は満足そうだった。
その数字が多いのか少ないのかは美穂には判断がつかない。
「東京近郊だけで500人いるってことですか?」
「全国で調べたら1000人を超えてたから首都圏に絞りました。サンプルをお見せするには多すぎたから。もちろん入会後に他府県の人にお申込みするのは自由ですよ」

500人いる候補男性のうち何人かのデータを見せてもらった。
もちろん本名や詳しい住所や写真などは見せてもらえない。
年齢や学歴や年収などは表示されている。
美穂の希望どおりみんな37歳とか38歳だ。

遠藤は候補男性をざっと見せていく。
思っていた以上にみんな年収が高い。
美穂より低い男性はほとんどいなかった。
年収1000万円オーバーの人も数名いた。

「こちらの人は東大を出てるんですよ」
遠藤が指し示した会員は37歳の会社員だった。
学歴の欄には大卒としか書かれてない。
年収は1500万円となっていた。

そうやってたまに遠藤は解説を入れながら100人ほどの会員サンプルを見せてくれた。
100人見ただけでもお腹がいっぱいになった。
500人でも多すぎる。全部は見きれない。

100人も見ればオーネット会員のレベルがなんとなくわかった。
思っていた以上に高学歴で、
持っていた以上に高収入だ。

「疲れたでしょ。お茶でも飲む?」
遠藤は席を立ちお茶を取りに行った。
戻ってきたときは冷たい麦茶と茶菓子まで用意してくれていた。
「これ成婚した会員さんのお土産なの。よかったら食べて」
「新婚旅行ですか?」
遠藤はお菓子を口に頬張りながら頷いた。「ヨーロッパ一周だって」

そのお菓子はこれまで食べたことがないような味がした。
異国の味そのものだった。
美穂には新婚旅行の味に思えた。
まだ美穂の知らない、未知の味。

「今日は3社まわってきたんでしょ?ゆっくり考えてね。あせって結論をだしても仕方がないもんね。一応オーネット入会に必要な書類とか教えておくから、もしウチに入ってくれるなら次に来るときはそれを用意してきてね」
遠藤はそう言っていろいろな書類が入った封筒を渡してくれた。

帰るときはわざわざエレベーターのところまで見送りに来てくれた。
「あなたはきっとすぐに結婚できると思う。美人だもん」
お世辞とわかっていても遠藤の言葉が嬉しかった。
本当に結婚できるのかと思っている美穂の不安な気持ちを、
吹き飛ばしてくれるような力を持っていた。
「もしウチに入ってくれたら私がきっちり面倒見てあげるからね」
遠藤はそういって美穂を見送った。

オーネットのビルを出たときに、もう美穂の気持ちは固まっていた。
迷うも何もない。
あの人のお世話になろう。
オーネットに入会しよう。

空はまだ雲ひとつなく、
夕日もきれいだった。
帰りの美穂の足取りは軽やかだった。


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