【婚活小説】2度と結婚情報サービスなんて

第6話 インGバブル

オーネットのホームページはもう2週間以上開いていなかった。
オリエンテーションのときに写真を閲覧して以来、
活動する気がまったく起きなくなっていた。

あんなに毎日眺めていた会報誌も、
今は部屋の片隅に無操作に転がっている。

あれ以来仕事も調子が悪かった。
寝坊して遅刻したり、ありえないようなミスをしたり。
体調もすぐれず、常に頭痛と体のだるさに襲われていた。

休日も何もする気になれなかった。
今日も朝から部屋でゴロゴロしてる。
せっかくの日曜日だけど、
買い物に行く気も掃除をする気にもなれない。

誰かに自分の気持ちを聞いて欲しかったが、
友達には婚活のことは内緒にしていた。
結婚相談所に入会していることを知られるのが、
なんだか恥ずかしかった。

こんなときのためにオーネットでは担当のアドバイザーを用意しているのではないのか?

入会前に説明を聞きに行ったときに遠藤は、
しっかり面倒見てあげるといっていた。
話が違うではないか。
入会後は完全放置だ。
面会希望なら予約してから来いと言うけど、
そんな雰囲気で本心を打ち明けて相談など出来るだろうか。

美穂はもっと違うものを求めていた。
入会前の遠藤の温かさを求めていた。

お金がもったいないのでオーネットはもう退会しようと思った。
他に婚活手段が思いつかないけど、
まずはいったんオーネットを退会し、
それから今後のことを考えよう。
このままでは月額費ばかり取られてしまう。

美穂は久しぶりにオーネットのホームページを開いた。
退会の仕方がどこかに載っていたはずだ。

ログインしてマイページを確認すると、
申し込みが50件来ていると表示されていた。
早めに返事をしましょうとのこと。

はじめは何の申し込みかわからなかった。
男性会員からのコンタクト希望が知らない間に50件も来てることに気づくまで、
かなりの時間を要した。

何かのドッキリではないかと初めは思った。
急にそんなにたくさん申し込みが来るなんて。
入会して最初の2週間ぐらいは0件だったのに。

よく見てみると、
申し込みのほとんどは会報誌イントロG経由でのもの。
そうか、会報誌に載ったのか!

しかし美穂のもとにはまだ会報誌は郵送されてない。
送り忘れているのだろうか?

ネット版の会報誌を確認すると、
新会員のコーナーに美穂の情報も掲載されていた。
みんなこれを見て申し込みして来たらしい。

そういえば郵便で送られてくる会報誌よりも、
ホームページのネット会報誌の方が先に更新されると聞いた。
オリエンテーションでそのようなことを言ってたのを思い出した。

50件という数字に美穂はなんだか落ち着かなくなった。
この2週間ダラダラ生きてきたけど、
急に強力な眠気覚ましを飲まされたように、
体がそわそわしはじめた。

家でじっとしていられない心境だったので、
とりあえず夕飯の買い出しに向かった。

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スーパーで果物やお惣菜などいろいろ仕入れてきた。
最近買い物もサボりがちだったので、
冷蔵庫や食料を入れておく棚はカラに近かった。
両手いっぱいに食料を買いだめして美穂は部屋に戻ってきた。

マンション入り口の自分の郵便受けを確認すると、
オーネットから会報誌が届いていた。

部屋に戻って会報誌を確認すると、
たしかに自分も他の新会員と一緒に紹介されていた。
自分の書いた150文字の自己PRも掲載されている。
たいして面白みのない文章ではあったが、
これを読んで50人もの男性が申し込みをしてくれたのだ。

ささやかな希望の光りが窓から差し込んできたように感じた。
人から認められるということが、
これほど癒やしになるとは。

嬉しさのあまり仲の良い友人に自慢してみたい誘惑にかられる。
でも恥ずかしいので思いとどまった。
婚活していることがバレてしまう。

夕食を済ますとさっそく50人の確認作業にとりかかった。
どんな人たちから申し込みが来たのかをチェックしていくうちに、
当初の興奮もどんどん冷めていった。

40代の人がけっこういる。
50代の男性も5人いた。

高卒の人も何人かいた。
美穂より収入の低い人もいる。

これは仕方がないことなのだろう。
美穂の希望に合う人だけが応募して来るわけではない。
誰に申し込むかは自由だ。
バラつきがあって当然だ。

50人の中で返事を出してもいいと思えたのは、
36歳の公務員ただひとりだけだった。
他は気が進まない。

写真がないのでどんな人かわからないが、
とりあえず返事を出してみようと思った。


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